代筆の仕事でもっとも難しいこと。

代筆サービススタッフにとって、仕事でもっとも難しいことは何だと思いますか?

文章執筆、つまり文章を作成すること?いえ、それはプロである私たちにとっては、ある意味でごく簡単なことです。多い時期なら、1日に1万文字を超えるような分量の文章を作成することさえありますから(お客様とのメールのやり取りは別で、です)、文章作成が難しいと言っていては、とても仕事になりません。

では、おおぜいのお客様を担当して、同時並行で仕事を進めること?いえ、これもきちんと管理さえしていれば、事務的に進められることです。そんなことに神経を使っているようでも、仕事になりません。

私たちにとってもっとも難しいこと、それはお客様の考えを正確に知る、ということです。とくに【代筆サービス】では、お客様との情報交換はメールが基本ですから、これが非常に難しいのです。書くべきことについての考えがまとまっていない、というお客様がほとんどですから、いかにしてお客様の考え=頭の中にあるモヤモヤした状態のものを探り出すか、それをいかに上手に引き出すか、これが実に難しく、手間とヒマのかかる作業なのです。

作成する文章内容そのものだけではありません。たとえば会社に提出する昇格試験課題論文を書いてほしいというお客様の中には、実はあまり昇格することに関心がないという方もいらっしゃるのです。会社から出せと言われたので、何か書いて出さざるを得ないが、あまりいい加減なことも書けないから――。そんな状態で【代筆サービス】に依頼して来られるのですが、そのホンネをなかなかおっしゃらないケースもあるのです。昇格論文というのは基本的には建前で書くべきものですから、当然、私たちはタテマエ論中心にお尋ねします。しかし、お客様にそういうホンネがある以上、昇格論文として使えそうな材料、的を射た答えというものが、なかなか出てこないのです。

また、当然のことですが、文章を書くのが苦手というお客様も多いですから、できるだけこちらで回答の選択肢を用意して、前者ですか?後者ですか?とか、イエスですか?ノーですか?とか、端的にお答えいただけるような形を工夫したりします。それでも、当サービスで扱う文章の多くでは具体性が重要ですから、誰が、いつ、どこで、何を、なぜ、どのようにして、というようなことをお尋ねしない訳には行きません。そういった具体的情報は、当事者であるお客様にしか判らないことだからです。

ところが、こういう具体的な事柄のお尋ねに対して、的確にお答えいただけるお客様というのは、案外少ないのです。極端な話、「どのようにして、~~したのですか?」とお尋ねしているのに、「はい。」という、たった一言しか返って来ない場合さえ時々あるのです。つまり、「どのようにして、」という部分をお読みにならず、あるいはお読みになっていても無視して、「~~したのですか?」という部分への回答をなさる訳です(最近は慣れましたが、最初はノケゾッてしまったものです)。私たちが用意した回答選択肢の中の最後のひとつが該当するために、「それだ」という意味で「はい。」とお答えいただくという場合もあります。いずれの場合も、「はい。」だけでは何のことか、いったいどれが該当するのかは、私たちには判りません。

お客様の考えを正確に知るということについては、他にもいろいろ難しさはありますが、これさえ完璧にできれば、文章を作成することに、それほど苦労はありません。入念な質疑応答を繰り返すうちに、私たちスタッフの頭の中にはほぼ文章の構成も形作られていますから、あとは流れるようにパソコンのキーボードを打っていくだけです。もちろん、ひと通り書いてから何度も推敲はしますが、それはむしろ楽しい作業です。多くのお客様が自分で書く場合に苦労なさるように、文字数が足りなくて困るということもありません。むしろ多くの場合は書き過ぎて、それを削って行く作業が必要になります。しかしこれも大したことではありません。

人間の意思疎通、コミュニケーションとは難しいものだと、日々実感しています。